杉原こうじのブログ2

武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司の綴るブログです。こちらのブログ https://kosugihara.exblog.jp/ の続編となります。

朝日新聞<安保の行方 武器輸出を問う>にインタビュー記事が掲載されました


1月6日の朝日新聞4面に私のインタビュー記事が掲載されました。昨年12月22日の殺傷武器輸出解禁の閣議決定前ならベストでしたが、市民運動の声が反映された意義は大きいと思います。今後も閣議決定の撤回と密室協議を続ける実務者チームの解散を求めていきます。ぜひ、紙面でお読み下さい。

【紙面版】
(安保の行方 武器輸出を問う)殺傷現実なら、国の形変わる 杉原浩司氏
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15832207.html

【デジタル版】
「自衛」は恣意的、武器渡せば歯止めなし 与党12人が決める国の形 杉原浩司氏
https://www.asahi.com/articles/ASRDV3J98RDQULFA027.html

<お時間のある時にこちらも!>
20231114 UPLAN 佐藤丙午 VS 杉原浩司
「殺傷武器輸出は是か非か 国会参考人ガチンコトーク~賛否の異なる二人による徹底討論」
https://www.youtube.com/watch?v=RPA3yupQvKA (1時間55分)

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★以下はそれぞれの全文です(佐藤丙午さんの回も付けています)

<安保の行方 武器輸出を問う>

【紙面版】

殺傷現実なら 国の形変わる

市民団体「武器取引反対ネットワーク」代表
杉原浩司氏

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15832207.html

 殺傷能力のある武器輸出の解禁によって、日本製の武器で他国の人々が殺傷される事態が現実になりかねない。それは日本が平和国家として、侵略戦争の反省を踏まえ、加害者にならないとしてきた国の形を変える大転換だ。
 武器がなければ大量虐殺は成立しない。パレスチナ自治区ガザ地区の惨状を見て、改めてそう思う。米国などが輸出した武器が、イスラエルによるガザでの住民虐殺を支えている。
 他国の企業の許可を得て日本企業が国内で製造する「ライセンス生産品」の輸出が、今回の改定で全面的に解禁された。ライセンス元8カ国には、イスラエルに武器輸出する米国やドイツが含まれる。ライセンス元の国の備蓄を補うことで、イスラエルなど紛争加害国への輸出が促進されかねない。
 過去には英伊などが共同開発した戦闘機「ユーロファイター」がサウジアラビアにわたったことで、イエメン内戦で空爆に使われ、多数の民間人を殺傷した。年内の結論は先送りされたが、日英伊が共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出が今後解禁されれば、同様の惨状をもたらす可能性が高い。共同開発自体を中止すべきだ。
 日本は憲法前文で、世界の人々の平和的生存権を守ると宣言し、9条で武力による紛争解決を否定している。世界のどこで侵略や虐殺が起きても、できる限りの支援を行うべきだが、日本は「良心的軍事拒否国家」として、非軍事的な支援に徹すべきだ。
 1981年には、武器輸出禁止について「厳正かつ慎重な態度をもって対処するとともに、実効ある措置を講ずべきだ」と徹底を求める決議が衆参両院の全会一致で可決された。これを覆すなら、両院の全会一致の決議で変更すべきだろう。わずかな数の与党議員による密室協議ではなく、国会での熟議が必要だ。

(聞き手・高橋杏璃)

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【デジタル版】
<第3回>
「自衛」は恣意的、武器渡せば歯止めなし 与党12人が決める国の形

杉原浩司 武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表

https://digital.asahi.com/articles/ASRDV3J98RDQULFA027.html

(聞き手・高橋杏璃 2023年12月28日 18時00分)

武器輸出を制限する政府の「防衛装備移転三原則」をめぐる自民、公明両党の実務者協議を受けて、殺傷能力のある武器輸出の解禁が決まりました。今回の三原則改定に反対する市民団体「武器取引反対ネットワーク」の杉原浩司代表は、日本は非軍事分野の支援を徹底すべきだと訴えます。

 ――与党協議では、殺傷能力がある武器の輸出は禁じられていないとの新たな解釈が示されました。

 2014年の三原則の策定に携わった東大客員教授の高見沢将林(のぶしげ)・元内閣官房副長官補が、5月の与党協議に出席し、「当時は自衛隊法上の武器も入る前提で議論していた」と証言したのを受けたものです。ただし、当時の議事録などが公開されたわけではありません。伝聞情報によって解釈を変更し、今まで出さなかった殺傷能力のある武器を出せるようにするのは、国の政策決定としてはあり得ないものです。

 ――武器の輸出を認める「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型のうち「警戒、監視」のための停船射撃用の銃器など、業務を行ううえで必要な武器や、自己防護のための武器であれば構わないとの解釈を、政府は示しています。

 自己防護といっても、現場の力学によって非常に恣意(しい)的なものになります。本当に自己防護のための武器使用かを判断するのは、自国であっても極めて難しいと思いますが、ましてや他国に渡してしまった後での実効性のある制限は不可能です。

 だからこそ、これまで日本は、「殺傷能力のある武器を他国には出さない」というところで線を引いてきたのではないでしょうか。「自衛」で線を引くことはできないと思うのです。

 ――ウクライナにはすでに防弾チョッキやヘルメットを提供しています。

 防弾チョッキなどは確かに人を守る形で使われますが、結局、戦場の兵士がそれを使うことによって自分たちの身を守りながら相手を攻撃できることになります。防空システムも同様で、相手の攻撃を防ぐことで、攻撃しやすくなります。

 つまり、防衛的な武器というのは必ずそれ単体で運用されるのではなくて、攻撃システムと一体のものとして戦場で軍事作戦に使われる。防衛的だから、抑制的だからいいんだということは通用しないし、線引きも非常にあいまいです。

 ――ウクライナなど侵略を受けている国に武器支援しなければ、将来日本が侵略されたときに支援をしてもらえないとの意見もあります。

 自国が侵略を受けたときに武器を出してもらうために、前もって武器を支援しないといけないという理屈は、現実離れしています。

 たとえばウクライナは、いま武器支援を受けている国々全てに、戦前から武器を輸出していたわけではありません。日本もウクライナから武器を輸入していませんでしたが、いま様々な形で支援をしています。

 侵略を食い止めるためにできる限りのことを、それぞれの国の法的な枠組みの中でやればいいのです。だからそれは、日本の殺傷武器の輸出を正当化するための非常にナンセンスな暴論だと思います。

 ――ロシアによるウクライナ侵攻のように一方的な現状変更がまかり通る世界を許さないため、日本としても友好国を支援すべきだという考えもあります。

 日本は憲法前文で、世界の人々の平和的生存権を守ると宣言していますから、世界のどこで侵略や虐殺が起きても、その人たちを守るためにできる限りの支援をするべきだと思います。

 ただ、それぞれの国のあり方によってそれは様々な形のアプローチがあります。日本の場合は、憲法前文と9条に基づく「良心的軍事拒否国家」として、武器輸出はせず、非軍事的な支援を徹底することで、十分に役割を果たせると思います。侵略した側へのさらなる経済制裁など、非軍事分野での支援をもっと拡充できるはずです。

 ――与党協議に参加したのは12人で、国会での議論を経ずに政府へ提言を提出し、三原則と運用指針が改定されました。

 防衛装備移転三原則が策定される前、「武器輸出三原則」で武器輸出が禁止されていた1981年には、武器輸出問題について「厳正かつ慎重な態度をもって対処するとともに、実効ある措置を講ずべき」だと、禁止の徹底を求める決議が衆参両院で全会一致で可決されています。

 ならば、それを覆すときも両院の全会一致の決議をもって変更するのが、本来しかるべきプロセスではないかと思います。与党協議のメンバーは20回以上議論したと強調していますが、正当性は全くありません。国会で議論し直してほしいと思います。

 ――日本、英国、イタリアで開発中の次期戦闘機を念頭に置いた「国際共同開発品」の完成品の第三国への輸出解禁は、公明党の反対で見送られました。

 日本製の武器で他国の人々が殺されるべきではないという、長年の平和主義が人々に根付いており、やはり公明党もそれを無視できないということの表れだと思います。ただ、年明け以降に議論が再開されたあと、姿勢を軟化させ解禁を認めていく可能性は強いと思って警戒しています。

 日本から直接第三国への輸出ができなくても、英国とイタリアが他国へ輸出した場合の問題もあります。過去には、英国とイタリアなどが共同開発した戦闘機「ユーロファイター」がサウジアラビアにわたり、それがイエメンの内戦で空爆に使われ、多数の民間人が犠牲となっています。今回もそうしたことに日本製の戦闘機が使われる可能性があります。国際共同開発自体を止めないといけません。

 さらに、今回輸出が可能とされた、他国企業の許可を得て日本企業が国内で生産する「ライセンス生産品」のライセンス元8カ国には、イスラエルに武器を輸出している米国やドイツが含まれます。イスラエルパレスチナ自治区ガザ地区で民間人の大量虐殺を続けています。ライセンス元国の備蓄を日本が補うことで、イスラエルなど紛争加害国への輸出が促進されかねません。

 ――武器輸出の緩和について、反対運動が広まっているようには見えません。

 従来の日本の平和運動憲法9条を守ることに強いこだわりとエネルギーがあって、それはいいことでもありますが、具体的な武器開発や個別の取引には十分に取り組めていませんでした。その表れとして、市民運動の規模は小さなものにとどまっています。

 しかし、報道各社による世論調査では、殺傷能力のある武器輸出への反対が軒並み賛成を大きく上回っています。やはり、日本の武器で他国の人を殺してはいけないということが、人々の間で根付いているのです。その日本のあり方を、政治が理解していない。防衛装備移転三原則の策定から10年が経とうとしているいま、日本の武器輸出がどうあるべきか、市民社会を巻き込んで国会で根本的に議論すべきだと考えます。

(聞き手・高橋杏璃)

<杉原浩司氏の略歴>
すぎはら・こうじ 市民団体「武器取引反対ネットワーク(NAJAT)」代表。1965年、鳥取県生まれ。80年代半ばから市民運動に参加。共著に『亡国の武器輸出』など。

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<第1回>
武器輸出制限は「未完の改定」 定義あいまい、日本の影響力にも影

佐藤丙午 拓殖大教授・安全保障論

https://digital.asahi.com/articles/ASRDT6WS7RDQULFA004.html

(聞き手・田嶋慶彦 2023年12月26日 18時00分)

政府は、武器輸出を制限する「防衛装備移転三原則」と運用指針を改定し、殺傷能力のある武器の完成品を含め、輸出規制を大幅に緩和しました。安全保障政策の大きな転換は日本に何をもたらすのでしょうか。紛争を助長しないための「歯止め」は機能するのでしょうか。拓殖大の佐藤丙午(へいご)教授(安全保障論)に聞きました。

 ――武器輸出は、日本の安全保障にどういう影響を与えますか。

 端的に言えば、日本が輸出先国にとって不可欠なパートナーになるということです。日本の装備品を相手国が使うという一連のサイクルができれば、功利的な話ではありますが、日本の意向を無視することができなくなります。

 ――武器輸出を通じて、そういう関係を築けるのでしょうか。

 安く、良いものを提供することが前提ですが、日本の装備品が不可欠なピースになれば、相手は日本に依存し続けるしかない。我々が米国に依存し続けるしかないのと一緒です。そういう関係性が生まれるので、日本にとっては極めて大きな利点がある。安全保障だけでなく、外交政策上のツールとしても非常に重要になります。

 ――今回、政府はさっそく、米国に地対空ミサイル「パトリオット」の輸出を決定しました。

 インド太平洋地域に展開している米軍の拠点に配備されるのではないかと思います。米陸軍や海兵隊の戦術に合わせ、米国からミサイルを持ってくるのは非常に非効率なので、日本製を展開する利点があります。米陸軍や海兵隊の戦術を支援するための兵站(へいたん)を担う重要性はあります。

 ――日本は英国、イタリアと次期戦闘機を共同開発中ですが、今回の改定では、共同開発品の日本から第三国への輸出解禁は先送りしました。

 輸出後のメンテナンスなどの対応は輸出元の国が担うのが一般的です。仮に英国が戦闘機を第三国に輸出した場合、故障などが起きると最初に連絡するのは英国です。日本はソフトウェアや技術の機微な部分に関与できず、英伊を中心に技術開発が進むことになります。もちろん契約の内容次第ですが、そのリスクは重く見るべきでしょう。

 ――今回の改定で武器輸出のハードルは下がりました。今後、パトリオット以外にも日本からの武器輸出は増えていくのでしょうか。

 現状では、日本国産の武器の需要はほぼありません。日本で生産している武器は、他国企業の許可を得て製造している「ライセンス生産品」がほとんどです。日本の他にも作っている国があれば、戦場で使われたことのない日本国産の武器を買おうという気持ちにはなりません。もし政府が輸出を増やしたいなら、運用指針の改定以上に、現行の指針の枠内でできる努力を含め、輸出促進が可能になる制度設計にも時間をかけた方が良いと思います。

武器展示会 見栄え悪い日本ブース
 ――例えばどのような取り組みでしょうか。

 国際的な武器の展示会に行けば分かるのですが、日本のブースだけとても見栄えが悪い。実際の武器はなくパネル展示だけです。誰も見てくれないのです。実物を展示したり、自衛隊が協力して基地で実際動いているところを見せたりする努力が必要でしょう。

 また、防衛産業をサポートする体制が足りていない。防衛省内でも武器輸出を本気で増やしたい人はどれだけいるのか疑問です。防衛産業を支援する仕組みは整っておらず、省内にも「企業の利益のために自分たちが動くのは嫌だ」と考える人は多いと思います。輸出の枠組みがすでに出来上がっている欧米と、これから伸ばそうとする日本では状況が大きく違います。

 ――「ライセンス生産品」については、米国に限らず完成品も含めてライセンス元の国へ輸出が認められました。ライセンス元から第三国への輸出も「現に戦闘をしている国」を除いて容認します。

 歯止めをかけること自体は良いと思います。ただ、「現に戦闘をしている国」の定義は論争になるでしょう。平時に輸出したとしても、後に紛争になった場合にどう使われるのかという点も問題になります。私が野党なら国会で政府見解を明確にするよう厳しく指摘します。

 ――政府・与党は、ロシアの侵略を受けるウクライナ武装組織ハマスとの戦闘を続けるイスラエルは除外する考えを示しています。

 例えば、ライセンス元の国が、ウクライナ支援を続ける北大西洋条約機構NATO)向けに武器を出した場合、後にどの国へその武器が出されるかという意思決定に日本が影響力を行使するのは難しいです。

 ――ウクライナに限定していた被侵略国への支援も、「侵略を受けている国」全般に広げます。

 これも「被侵略国」の定義論争になるでしょう。被侵略国の意味はあいまいです。定義次第では、(自衛権を定めた国連憲章51条を根拠にウクライナ侵略を行った)ロシアも当てはまると言われかねません。

 ――武器の輸出管理はどうあるべきでしょうか。

 省庁間の対話の枠組みを作り、機微な案件はそこで可否を検討するのが良いと思います。原則で縛らず政策で縛るイメージです。例えば、人権を抑圧している国のほか、ジュネーブ条約武器貿易条約に入っていない国には輸出しないなど、様々な政治的な縛り方が考えられます。

 2014年には日本とトルコが戦車用エンジンの共同開発計画を棚上げしました。日本側がトルコから第三国への輸出に懸念を示したと言われています。交渉に携わった関係者から話を聞きましたが、当時の安倍晋三首相の決断で共同開発をやめたそうです。今回の改定でも基準があいまいで、言葉の定義をきちんとしないまま、未完の改定をしている印象を受けます。政治判断が求められる場面もあると思います。(聞き手・田嶋慶彦)

<佐藤丙午氏の略歴>
さとう・へいご 拓殖大教授・海外事情研究所所長。専門は安全保障論。1966年生まれ、岡山県出身。防衛庁防衛研究所主任研究官などを経て現職。