※私も参加している「経済安保法に異議ありキャンペーン」が公表した声明です。国会審議や市民の取り組みを振り返り、今後の課題を明確にしています。じっくりとお読みください。
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経済秘密保護法反対運動の継続を呼びかける声明
2024年6月9日 経済安保法に異議ありキャンペーン
1 はじめに
2月末に国会に提案された経済秘密保護法案=重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案は、私たちの反対の声にもかかわらず、4月5日内閣委員会、4月8日に衆院本会議で可決され、5月8日参議院内閣委員会、10日に参議院本会議で可決成立した。
自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成した。日本共産党、れいわ新選組、有志の会、社会民主党、沖縄の風が反対した。立憲民主党は、法案を批判する質問・討論を行ったが、修正案が受け入れられ、適切な内容が付帯決議に盛り込まれたとしてこの法案に賛成した。
2 私たちが、経済秘密保護法の成立に反対した理由
(1)経済秘密保護法は、特定秘密保護法を改定手続きによらず拡大するものであること
2013年に制定された秘密保護法は、防衛、外交、テロ、スパイの4分野の秘密指定しか想定しておらず、経済安全保障に関連する情報を特定秘密とすることが明示されておらず、現実になされていなかった。にもかかわらず、経済秘密保護法(以下適宜「法」と略称する)は、経済安全保障に関連した情報の中には、重要経済安保情報(コンフィデンシャル)以外に、秘密保護法上の特定秘密に該当するもの(トップシークレット、シークレット)があるという前提に立っている。つまり特定秘密保護法を「法改正」しないまま、「秘密保護法の運用基準」の見直し=「閣議決定」によって、特定秘密保護法上の特定秘密を、経済安全保障に関連した情報に大きく拡大しようとしたものといえる。
特定秘密保護法においては、「安全保障」は人の生命にかかわる事項に限定されていた。ところが、法では、「安全保障」の概念が経済にかかわる分野にまで拡大されている。法の成立によって、特定秘密保護法が、その対象分野だけでなく、「安全保障」概念までもが、「法改正」によらないで拡大されたこととなる。著しい立憲主義の破壊が起きている。
(2)法案の修正によっても秘密指定に関する監督措置が不十分であること
私たちは、特定秘密保護法について、①政府の違法な行為を秘密指定してはならないと法定すること ②公共の利害にかかわる情報を公表した市民やジャーナリストが刑事責任を問われない保障 ③適正な秘密指定がなされているかを政府から独立して監督できる制度 ④秘密指定された情報が期間の経過によって公開される制度、を求めてきた。
しかし、法は、このような特定秘密保護法に加えられてきた正当な批判について、これを踏まえた対応を一切行っていない。
さらに、政府原案では、衆参両院の情報監視審査会による監督や、国会への報告制度すら適用されず、特定秘密保護法の場合と比較しても、監督措置が極めて脆弱であった。
この点は、立憲民主党による修正案を政府が部分的に受け入れ、国会報告制度が盛り込まれ、情報監視審査会の関与も実現される可能性がある。しかし、政府から真に独立したアメリカにおける情報監察局のような、実際に秘密にアクセスし、秘密指定を覆すことのできる制度、期間の経過による自動的な秘密指定解除制度の創設などの措置こそが求められていたのであり、この法案修正は、法のこのような根本的な問題点を解消したものとは評価できない。
(3)法による秘密指定の範囲は限定されていない
政府は、秘密指定の対象となる情報は民間企業の保有する情報ではなく、国の保有する情報だけであると説明している。つまり、政府は、秘密指定の対象となるのは、政府が保有している情報であり、政府が保有するに至っていない情報を政府が一方的に秘密指定することは想定されないという。参院における付帯決議においても、「重要経済安保情報に指定される前から民間事業者が保有していた情報については、その取扱いについて民間事業者が責任を問われないことを明確にし、広く周知すること」と決議された。
しかし、特定重要物質のサプライチェーンに関する情報、15分野の基幹インフラ企業の施設、設備、プログラム、ITシステムに関する情報が国に集められたうえで秘密指定される仕組みであり、絞りがかけられているとは到底言えない。また民間所有の秘密情報に政府が機微情報(内容が不明)を付け加えれば、重要経済安保情報として秘密指定ができる仕組みになっている。加えてAI技術、量子技術、宇宙航空技術、海洋技術開発などの先端技術分野は軍事技術開発として日米共同研究が企図されており、セキュリティ・クリアランス(SC)の設定が不可欠となっているもので、日米軍事同盟のシームレスな展開が目指すという隠れた狙いがある。
およそ、絞りがかけられているなどとは到底評価できない。
(4)全てが、運用基準にゆだねられている
法では「重要経済安保情報の指定や解除、適性評価の実施、適合事業者の認定」に関する運用基準を政府が定めることとなっている。
4月17日の参院本会議で立憲民主党の杉尾秀哉氏は「運用基準に委ねるのではなく、法案審議の過程で明確な歯止めのルールを示すべきだ」と法案の根本的な問題点を指摘した。にもかかわらず、首相は正面から取り合わず「法案で国民の基本的人権を不当に侵害することがあってはならないと規定している」と述べるにとどまった。
(5)法は欧米では廃止されているコンフィデンシャル級の秘密指定を定めたもの
経済秘密保護法は重要経済安保関連情報であって漏洩によって著しい支障がある場合は特定秘密として扱い拘禁10年、支障がある場合には拘禁5年と、刑罰を二段階化し、秘密レベルを複層化する制度をとっている。
そして、欧米の制度と比較して、この著しい支障がある場合がトップシークレットとシークレット、支障がある場合がコンフィデンシャル級であると政府は説明してきた。
ところが、衆院内閣委員会の参考人の意見公述において、日弁連の斎藤裕副会長は、コンフィデンシャル級の秘密指定は英仏ではすでに廃止され、アメリカの情報保全監察局(ISOO)による2022年レポートは、大統領あての提言の冒頭で、コンフィデンシャル級の秘密指定の廃止を提言していることを明らかにした。
政府の認識を前提としても、法の根本的な見直しが必須となる、法の必要性・立法事実の根幹にかかわる問題点が明らかになったのである。にもかかわらず、問題を掘り下げることなく、法を成立させたことは、著しく不誠実な国会運営であった。
(6)数十万人の民間技術者・大学研究者が徹底的に身辺調査されプライバシーを侵害される
特定秘密保護法の適性評価は自衛隊員や公安警察官など主に公務員が対象であった。経済秘密保護法では広範な民間人が対象となることが想定されている。元から国家機密を扱うことが想定されている政府機関に就職した場合と異なり、中小企業も含め、一般の民間企業で働いていた、国家機密と縁のないはずであった人たちが突如、適性評価の対象とされうるのである。
例えば、もともと軍事研究とは何のかかわりもなかったAI技術や脳科学の研究者などが、研究対象の技術が軍事転用可能であるとして、適性評価の対象とされる可能性がある。基幹インフラ企業のIT技術者や、中国から輸入が難しくなった物資の輸入業務に関連する民間企業の従業員なども適性評価の対象とされる可能性がある。
適性評価は各行政機関が実施するが、その調査は、内閣総理大臣が実施する。
適性評価は、官民の技術者・研究者について、内閣総理大臣のもとに設けられた機関が、重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項、評価対象者の家族、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所、犯罪及び懲戒の経歴に関する事項、情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項、薬物の濫用及び影響に関する事項、精神疾患に関する事項、飲酒についての節度に関する事項、信用状態その他の経済的な状況に関する事項について調査を行うこととされている(12条)。
官民の技術者・研究者の、犯罪歴、薬物歴、健康、精神疾患、経済状態、飲酒の節度などの個人情報が調べられるのであり、プライバシー侵害の危険性は極めて高い。
衆院で、国民民主党がハニートラップの危険性に関して性的行動が調査事項とされていないのは問題ではないかと高市大臣を追及した。高市大臣は法案12条2項1号の「重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項」に該当し、調査できると明確に答弁した。ところが、この点を、参議院の内閣委員会で福島みずほ議員が追及すると、防衛省は、性的行動の調査は行わないが特定有害活動との関係に関する事項の場合は適性評価において考慮されうると答弁した。要するに調査するということだ。さらに、性的行動が調べられるなら、政治活動、市民運動、労働組合活動なども調べられるのではないかとの質問に対して、政府委員は、どのような事項について調査しているかも、敵につけ入る隙を与えるので答えられないと答弁した。この点は、2013年に特定秘密保護法が成立した後の運用基準では、「評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならない」と定められていた。政府委員の頭からは、自らの定めたこの運用基準すら飛んでしまっていたことが明らかだ。この点は、後述するように参院の付帯決議において一定の前進が図られた。
(7)労働者には適性評価に同意しない自由はない
適性評価の実施には、本人の同意を得るとされるが、その家族と親族、隣人、同僚等の同意は不要である。また、仮に同意しなければ、当該研究開発等の最前線から外されたり、企業等の方針に反するものとして人事考課・給与査定等で不利益を受けたりする可能性は否定できない。
適性評価の対象とされる者は、アメリカのクリアランス対象者が400万人とされることから推定すれば、我々はすくなくとも数十万人にも及ぶと推定してきた。衆院審議の最終盤で、高市大臣は、適性評価の対象者は当初は、「多く見積もって数千人程度で、数万人の単位にはならない」と答弁した。しかし、その根拠は示されず、今後拡大していくことの歯止めは何もない。評価結果についての「苦情の申し出」は評価を実施した行政機関の長にするものとなっており公正性に問題があり、監査機能を持った機関が不可欠である。
適性評価が適切におこなわれているかを監督することは、個人情報保護委員会の所管ではあるが、多くの所管事項の中の一つにすぎず、独立の立場で監督する専門的な第三者機関は存在しないのである。
(8)内閣総理大臣のもとに膨大な個人情報および企業情報が蓄積されるが、濫用の歯止めとなる調査に対する監督機関はない
適性評価そのものは各行政機関が実施するが、評価のための調査は、ほぼ一元的に内閣総理大臣が実施することになっている。サプライチェーンや基幹インフラに関わる企業の経営情報や官民の技術者・研究者の膨大な個人情報が、内閣総理大臣のもとに置かれる新たな情報機関に集中・蓄積され、プライバシーの侵害と監視社会の現実的な危険性があるばかりでなく経済の国家統制の仕掛けともなり得る危険性を指摘しておきたい。
このような膨大な企業情報や個人情報の蓄積は、日本の歴史にかつてなかった事態である。このような情報の集積と秘密化を可能とする仕組みは、デジタル監視法によってすべての情報を内閣総理大臣のもとに一元化した仕組みを前提としている。数十万人の身元調査ができる仕組みは、恣意的に運用されれば、全国民(市民)が調査可能であるという国民監視システムが構築されたことを意味する。個人情報が適切に管理されているか、個人情報保護委員会だけで監督できるか大変心もとない。この点についても、独立の立場で監督する専門的な第三者機関が不可欠である。
3 経済秘密保護法反対運動の成果と今後の課題
(1)悪法成立の集団的な記憶をつくることが第一の課題
経済秘密保護法と経済安保をめぐる国際対立の激化の先には、米軍の先兵として日本と中国との本物の戦争の悲劇が待っていることを覚悟しなければならない。そして、この法律が実際に悪用されることを防ぐためには、まず、法が成立したことを広く市民に知らせる必要がある。
5月8日の東京新聞特報面は、福島国際研究教育機構(FREI)と、アメリカの核・原子力研究機関PNNLの協定締結の動きを取り上げ、法案が成立すれば、武器開発・核開発につながる先端技術の研究が秘密のベールで覆われる危険性を指摘した。このように、法案に対する疑問の声が、メディアにおいても、ようやく大きく取り上げられるようになってきた。このような動きを圧殺するかのように、政府与党は法の成立を急いだ。
2013年に制定された特定秘密保護法、2017年に制定された共謀罪は、未だ猛威を振るうような状況になっていない。それはなぜだろうか。野党と市民が共同して大反対した記憶が残っているからだ。
ひるがえって、経済秘密保護法の成立は、どれだけ市民の記憶に刻み付けられたであろうか。われわれの活動はささやかではあるが、意識的な市民の間に一定の記憶をつくることには成功した。しかし、それは明らかに不十分なものである。人々の記憶にも残らなかった悪法は、ただちにその正体を現すことだろう。したがって、私たちの第一の任務は、この法律の問題点、人権侵害の危険性をできるかぎり広範な市民に知らせる努力を継続することである。
(2)経済界からも歓迎されていない適性評価に歯止めを掛けていく
また、法制定によって日本経済の国家統制が強化され、軍産学共同の軍事国家化が進むことになり、産業の自由な発展が阻害されるという問題もある。政府とつながる一部企業だけが優遇され、他の多くの企業が行う企業活動は重要経済安保情報の壁に阻まれ、これに近づこうとするだけで大きなリスクが課されることとなる。科学者・技術者の軍事動員や、大学・研究機関の国家統制によって基礎的科学、創造的研究が衰退していくおそれがある。
5月5日公表の産経新聞による調査では、主要企業110社からの調査回答によると、「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度創設に賛成の企業は3割に満たなかった。プライバシー侵害などの懸念が根強いことが示された。われわれの鳴らした警鐘が多くの良識ある経営者の胸にも響き、成立した法への懐疑につながったものと評価できる。企業の技術者だけでなく、大学の研究者にも成立した法の問題点を知らせ、秘密指定と適性評価という法の運用の影響下に置かれる人々への働きかけと問題点の可視化を図るための活動が必要である。
この点については、参議院における付帯決議において、次のような議決がされていることが注目される。少なくとも、これらの付帯決議が順守された運用基準が制定されるよう、厳しく監視していく。
「適性評価を実施するに当たっては、対象者やその家族及び同居人のプライバシーが侵害されることのないよう十分に留意するとともに、収集した個人情報は厳重に管理すること。また、適性評価の結果等を重要経済安保情報の保護以外の目的のために用いてはならないという、目的外利用禁止規定の実効性を担保するため、禁止行為を運用基準で明記するとともに、禁止行為の遵守を行政機関と適合事業者との契約においても求める等、可能な限りの対策を講ずること。特に個人情報保護法との関係においては、個人情報保護委員会が適宜、監視・監督を行うこと。」
「適性評価を実施するに当たっては、対象者の弱みを握り情報を引き出す活動との関係についても十分留意しつつ、本法が定めた調査事項に基づき公正で実質的な調査を行うよう努めること。また、本法第十二条第二項第一号に規定される「重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項」が何を指すのか可能な限り具体的な内容を明確化すること。加えて、調査事項に関係しない評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならないことや、調査の過程で調査事項に関係しない情報を取得した場合には、これを記録してはならないこと等を運用基準に明記すること。
(3)法制定の影響を注視し、ひるむことなく情報発信を継続する
この法律の制定によって、経済分野や研究開発分野など、広範な分野が秘密指定される。これにより、政府に都合の悪い情報も隠蔽され、市民の知る権利が侵害され、民主主義の前提となる情報が得られないことになり、民主主義が歪められる可能性がある。
戦争が始まるとき、国家権力は重要な情報を秘密化し、市民を欺こうとする。そして、「中国の脅威」を煽り立てることによって、異論を許さない社会的な雰囲気がつくられようとしている。
この点に関しては、参院の付帯決議において、次のような議決がなされていることが重要である。
「重要経済基盤、重要経済安保情報の範囲を明確にするとともに、恣意的な指定がなされないよう、指定の具体的な基準を運用基準で分かりやすく示すこと。加えて、運用基準に公益通報の通報対象事実(注)その他の行政機関による法令違反の事実を指定し、又はその隠蔽を目的として、指定してはならないことを明記すること。また、技術革新等の経済安全保障分野における変化の速さ等に鑑み、情報の指定・解除を柔軟かつ機動的に行うため、行政機関の担当職員の技術に関するリテラシー向上に鋭意取り組むとともに、指定要件の充足性について随時見直しを行い、国民の知る権利が侵害されないよう留意すること。」
この付帯決議は、経済秘密保護法によって秘密指定された情報についても、公益通報によって保護されることを明らかにしたものであり、この決議を実質化する運用基準が制定されるよう、パブコメの意見提出運動を取り組み、運用基準を確認する必要がある。
さらに、ジャーナリズムと市民活動家が、このようなキャンペーンによって情報発信を断念するように、恫喝の対象とされる可能性がある。この法律が適用された場合の弁護の方針や方法について、秘密保護法対策弁護団や同弁護団が設立したジャーナリスト・市民活動家とのネットワークNansisなどとの連携を強化し、近い将来に起こりうる弾圧に備えたい。
(4)法の運用基準の制定過程に関わり、歯止めを掛ける
私たちは、成立した経済秘密保護法が真の悪法として猛威を振るうことのないよう、今後予定される運用基準の制定の過程についても、市民の立場で意見を発信しつつ継続して粘り強く監視を続けたい。運用基準については、政府はパブリックコメントを実施すると考えられる。
法の運用基準において、政府の違法行為については秘密指定してはならないことを含めて、恣意的な秘密指定がなされないことを確保する。また、政治活動、労働組合活動、市民活動を調査の対象としないことなど、恣意的な適性評価にかかる調査が実施されることのないように、付帯決議で確保された水準を確保し、しっかりと歯止めを掛けていく。
(5)経済秘密保護法は特定秘密保護法とともに廃止させる
特定秘密保護法と合わせて、経済秘密保護法は少なくとも、いったん廃止させる必要がある。そのうえで、政府の違法行為を秘密指定してはならないことを運用基準ではなく、法に盛り込ませることが必要である。また、アメリカの情報監察局のように、政府から真に独立した監視機関の設立を実現することが必要である。さらに、ジャーナリストだけでなく市民活動家であっても、公益的な秘密の開示については刑事訴追されないことを法に明記させることが必要である。また、アメリカにおいて実現している、ひとたび秘密指定されたとしても、自動的に秘密指定が撤回されるなど複数の秘密開示制度を実現することが必要である。そして、少なくとも、英・仏・米の動向に沿って法の定めたコンフィデンシャル級の秘密指定は廃止させることが重要な課題である。間違っても、特定秘密保護法がコンフィデンシャル級に拡大されるようなことのないように厳しく監視していく必要がある。
そのために、きたるべき総選挙で、自公政権に代わる政権交代が実現した暁には、連立政権の政策協議の中で、今回成立した法と特定秘密保護法の両法について、廃止することを政権合意とすることを目指し、活動を続けていくことを宣言する。
(注)公益通報の通報対象事実
付録 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案に対する附帯決議(二0二四年五月九日 参議院内閣委員会)
政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである。
一 重要経済安保情報の運用に当たっては、衆議院及び参議院の情報監視審査会からなされた指摘や改善事項を含め、特定秘密の運用の蓄積を踏まえ、情報保全の必要性と国民の知る権利のバランスに十分配慮すること。
二 本法の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならないこと。
三 同盟国・同志国との間で重要経済安保情報を含む機密情報の共有が円滑に進むよう、必要となる国際的な協力枠組みの構築の推進に努めること。また、大企業のみならず、中小企業やスタートアップ等が適合事業者として認定され、国際共同研究に参加すること等を通じて、我が国の産業競争力を維持、強化できるよう、官民の協力体制の構築や必要な支援を行うこと。
四 国際的な協力枠組みの中などの必要な場面において、外国政府等に本法に基づくクリアランス保有者であることを確認する仕組みの在り方について検討を行い、必要な措置を講ずること。
五 本法により創設される新たな制度の具体的な中身を国民に分かりやすくかつ正確に説明することを通じ、官民双方において、情報保全の重要性に対する理解が広く醸成されるよう努めること。
六 本法に基づく重要経済安保情報の指定・解除、適性評価の実施、適合事業者の認定等を行うに当たっては、指定される重要経済安保情報の総量及びその取扱業務の最適な規模をできるだけ具体化すること。また、各行政機関が行う重要経済安保情報の指定は、合理的で最小の範囲において行わなければならないこととするよう、独立公文書管理監等が適宜、検証や監察を行うこと。なお、独立公文書管理監の独立性を確保するために必要な方策について検討を行うこと。さらに、国会が監視機能を十分に果たすため、国会からの情報提供の求めに対しては誠実に応じること。
七 重要経済基盤、重要経済安保情報の範囲を明確にするとともに、恣意的な指定がなされないよう、指定の具体的な基準を運用基準で分かりやすく示すこと。加えて、運用基準に公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の事実を指定し、又はその隠蔽を目的として、指定してはならないことを明記すること。また、技術革新等の経済安全保障分野における変化の速さ等に鑑み、情報の指定・解除を柔軟かつ機動的に行うため、行政機関の担当職員の技術に関するリテラシー向上に鋭意取り組むとともに、指定要件の充足性について随時見直しを行い、国民の知る権利が侵害されないよう留意すること。
八 重要経済安保情報に指定される前から民間事業者が保有していた情報については、その取扱いについて民間事業者が責任を問われないことを明確にし、広く周知すること。
九 適性評価を実施するに当たっては、対象者やその家族及び同居人のプライバシーが侵害されることのないよう十分に留意するとともに、収集した個人情報は厳重に管理すること。また、適性評価の結果等を重要経済安保情報の保護以外の目的のために用いてはならないという、目的外利用禁止規定の実効性を担保するため、禁止行為を運用基準で明記するとともに、禁止行為の遵守を行政機関と適合事業者との契約においても求める等、可能な限りの対策を講ずること。特に個人情報保護法との関係においては、個人情報保護委員会が適宜、監視・監督を行うこと。
十 民間事業者や適性評価対象者等への配慮として、適性評価における本人の真の同意、評価結果と理由の速やかな通知と苦情の申出の適切な処理を確保するための方策(契約への明記、十分な情報提供、通報・相談窓口の設置等)を検討し、運用基準等において必要な措置を講ずること。
十一 適性評価調査への不同意や評価結果を理由とする不合理な配置転換・解雇等の労働者への不利益な取扱いの防止のためには、事業者と重要経済安保情報の取扱いの業務に当たることが予定されている労働者との間の意思疎通が重要であることに鑑み、事業者の実情や事業の実態に応じた、労使間の協議も含めた適切な意思疎通が行われるようガイドラインを作成すること等を検討すること。
十二 適性評価を実施するに当たっては、対象者の弱みを握り情報を引き出す活動との関係についても十分留意しつつ、本法が定めた調査事項に基づき公正で実質的な調査を行うよう努めること。また、本法第十二条第二項第一号に規定される「重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項」が何を指すのか可能な限り具体的な内容を明確化すること。加えて、調査事項に関係しない評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならないことや、調査の過程で調査事項に関係しない情報を取得した場合には、これを記録してはならないこと等を運用基準に明記すること。
十三 適性評価調査を行う内閣府や適性評価を行う各行政機関における実効的な体制整備を速やかに進めるとともに所要の予算を確保すること。また、評価結果を通知するまでの期間を可能な限り短縮化し、民間事業者の事業活動を阻害しないよう努めること。
十四 特定秘密保護制度を始めとする既存の情報保全の仕組みとの整合性、とりわけ、法人に対する両罰規定について見直すべき箇所がないか検討を行うこと。
十五 重要経済安保情報の漏えいや不正な取得を行った場合の罰則について、罰則の程度と抑止力のバランスを適宜検証し、本法施行後の状況を踏まえ、必要があれば速やかに見直しを検討すること。
十六 中小企業等が事業を継続するために適合事業者の基準を満たす必要が生じた際に、中小企業等にとっては必要な施設整備等のための負担が大きくなることが考えられるため、政府からの協力要請に応じて重要経済安保情報に触れることとなる場合等、経緯や実態も踏まえて、支援の在り方について合理的な範囲内で検討すること。
十七 適合事業者が重要経済安保情報を適切に保全できるよう、施設設備の基準等を作成・公表すること。また、「外国による所有、管理又は影響」(FOCI)を管理する制度の整備について検討した上で、適切な措置を講ずること。
十八 重要経済安保情報の指定を含む政府の政策決定プロセスに外国勢力等の不当な影響が及ぶことにより、国益を損なうことのないよう留意すること。
十九 本法の適用に当たっては、産業分野の公正な競争環境が毀損されることのないよう十分留意すること。
二十 民間事業者や独立行政法人が保有している情報であって国として経済安全保障の観点から保護が必要と考えられる最先端技術等について、民間事業者等が必要となる対応をとれるような環境を整えていけるよう、指針策定の妥当性も含め検討すること。
二十一 技術は我が国の自律性・不可欠性の重要な一部を構成するものであり、その流出防止は経済安全保障上喫緊の課題であることを念頭に置き、我が国の国際競争力の維持に支障を及ぼすこととなる国外流出を防ぐため、早急かつ徹底的に技術流出・技術管理対策の強化に取り組むこと。
二十二 経済安全保障に資するインテリジェンス能力を更に強化するため、政府全体における情報の収集・分析等に必要な体制を整備するとともに、関係省庁間における必要な情報の共有についても強化を図ること。また、本法の趣旨に鑑み、経済安全保障に資する情報について、民間を含む関係者への提供についても配意すること。
右決議する。
経済安保法に異議ありキャンペーン
[連絡先] 090-6185-4407(杉原) 03-3341-3133(東京共同法律事務所・海渡)